思い

すぐに治ると思ったが

風邪は万病の元であるといった言葉を何度か聞いた事があったが、その事を今年(2004年)の秋に初めて実感というか、強烈に体験させられた気持ちだ。

風邪を引いたのは9月中旬から下旬頃だった。これまでにも何度か風邪をひいた事はあったが、それ程こじらせた事は無く、風邪には強いといった意識を持っていたので、今回も最初は市販の風邪薬を飲んでいたのだが、何故だか全く効果が感じられない。で、ちょっとやばいかなと思い始め、近くの病院に行って、診てもらい薬を出してもらった。
病院から出してもらった薬を飲んでいるのである。この時は、間違いなく治るだろうと思ったのだが、何故だか体調は良くならないではないか。それどころか、逆に悪化していく感じ。何日かすると、店も休む様になってしまう。
だが、所詮はたかが風邪だ。体を休め、しっかり薬を飲み我慢していれば必ず良くなってくれるだろうと思いつつ部屋でゆっくりと休んでいたのだが、体調は思いとは逆に悪化する一方だった。遂には、10月3日の夜に家族に頼んで救急車を呼んでもらってしまう。そして、救急車が来た時にはもう体は動かない状態となっていて、救急車の方々に救急車の中まで運んでもらったが。

すぐに総合の救急病院へと運ばれた。救急室というのだろうか、そこに運ばれると、待っていたらしい医師や看護師に軽く診られた後に｢眠ってもらいます｣と言われて看護師に麻酔の注射を打たれたのではないかと思う。その場ですぐに眠ってしまった。
翌朝に目覚めた時、僕は病室にいた。そこが一般病棟では無い事はすぐに理解できた。と同時に、全く声が出なくなっている事に気づく。一体どうなっているんだこれは、と焦った気持ちにもなったが、口の中にも何やら管が通っている事が分かり、それが原因なのかなとも思ったけど。
だが、何とか意思表示をして筆記具と用紙を看護師さんに用意してもらい、そこで伺ってみれば、弱っていたらしい心臓の動きを補助するポンプが心臓に入れられていて、それを外すまでは声は出ないと説明された事を覚えている。
この事を聞いた時は、何とも言えない不思議な気持ちだった。運ばれた後に眠ってる間に行われた事だったのだろうけど、一体どうやってポンプなんて物を心臓に入れたんだろうか。まして、それを外すとなった時には、一体どんな事をされるんだろうと。
ただ、それから数日後の事だったが、何気なく掛布団を取った時に、右足の太股に何かの装置の部品かと思われる物が付けられていて、この時にも驚かされてしまっていたが、今では恐らく足の血管から入れられていたのではなかろうかと思うようになっているのだが。

心臓を補助するポンプは、心臓の状態がある程度良くなったら外しますと初めて質問した看護師さんは答えてくれていたと思う。まだ入院1日目だったけど、意識はしっかりしているし、心臓を悪くした事なんて全く無かったし、翌日に行われるらしい主治医の検査の後には必ず口の中に入れられている管は外してもらえるのではなかろうかと勝手に思ったりしたのだが、思うようにはいかない物である。
2日目辺りからは、家族よりノートとボールペンを用意してもらって、ポンプはいつ頃外してもらえるのかなどとしつこく伺っていた。

最初は2日目の検査の時にはきっと外してもらえるだろうと思っていたのだが、今考えてみれば回復が遅かったのだろうか、主治医はすぐには外してはくれなくて、毎日ノートを通じて看護師さんにいつ頃になったら外してもらえるのですかと問うたり、口の中に溜まった痰を取ってもらったりしていた事を思い出す。
そして入院して5日目の朝だったろうか。起きてみれば、声が出るようになっていたではないか。
心臓に入れられていたというポンプは、また眠っている時に取られていたのだろうかと思うのだが、これには本当に驚かされたと同時に嬉しかった。当時入院していた時にもノートには｢嬉しい事に知らぬ間に口の中に通ってあった管が外れ声が出るようになっていた。思わず喜んでしまったが、甘いことばかりでも無い様で、何も飲む事が出来ないってんだから｣などと書いていたが、その日の夕方から透析食が始っている。
ただ、集中治療室の時にはまだ自分で食べる事が出来なくて、看護師さんに食べさせてもらっていたけれど。

今回の風邪で心臓を傷めてしまうなんて事も非常に予想外な事だったのだが、同時にこれも何が原因だったのかハッキリとは分からないが、腎臓も傷めていたらしく病院に運ばれたその日から透析の治療が行われていたらしい。
翌日からも集中治療室で3日～4日続けて透析が行われていたが、その後はベッドに乗せられたまま人工透析室まで運ばれて透析が行われる様になった。
そして入院してから7日目の10月9日に集中治療室の看護師さんに、突然に一般病棟に移ると言われて思わず驚いてしまったが、やはり嬉しかった。透析を終えた後の午後3時過ぎに移ったけど、その当時ノートには｢回復してきているなと感じさせてくれる｣などと書いていた。